伊勢原さんのFirst Loveは最高やけん
二時間飲んで、いい感じに出来上がった和が円の腕を引っ張って言った。
「エビちゃんと伊勢原さんがええならええんちゃう?」
円は静と遥の顔を見てそう言った。
「おいエビ、行くやろ?」
「恫喝やん」
静をにらみつける和に、遥は呆れた声で言った。
「僕、行きたいです」
静は和にそう言ってから、隣にいた遥をちらりと見やって微笑んだ。
「エビちゃんがほう言うなら僕も行くし」
遥がそう言うと、和は満足げな顔をした。
「ほな決まりッスね」
「僕らいつも行くんはカラオケなんやけど、エビちゃんどう?伊勢原さんめっちゃ歌うまいよ」 円が言うと、遥は胸の前で大げさに両手を振った。
「東雲さん、ハードル上げんといてくださいよ」
「マジでめっちゃうまいけん、普通に歌手やけん、聴かな損やで」
謙遜する遥の腕をつつきながら、和が興奮気味に言った。
遥は恥ずかしそうに頭を掻いて、うつむいていた。
「僕、伊勢原さんの歌聴きたいです。伊勢原さん、めっちゃええ声しとるから」
静にそう言われて、遥は酔って赤くなった顔をさらに赤くした。
「一番はエビいっとく?今日の主役はエビやし?」
和にタッチパネル式のリモコンを渡された静は、首を横に振った。
「僕、歌うんは苦手なんです。でも聴くんは好きですから」
静の言葉に、和は「マジで?」と不満そうだった。
「誰もゆうてへんけん」
和に一応、遥がツッコむ。
「はい、ほな一番僕いこうかな」
和をスルーして、遥が静からリモコンを受け取った。
「伊勢原さん、First Love歌うてよ。エビ、伊勢原さんのFirst Loveは最高やけん。腰抜けるけん」 向かいに座る遥と静を見ながら、熱心に和が語った。
「ハードル上がるわぁ」
遥は恥ずかしそうに笑った。
そして、遥の歌は控えめに言って最高だった。
声量のある伸びやかなテノールで、音程もリズム感もプロの歌手顔負けだった。
何よりも、感情表現が豊かだった。
静は遥の横顔をうっとりした目つきで見つめていた。
「どう、惚れてもた?」
歌が終わって、静の視線に気が付いた遥が笑いながら言った。
「はい、腰が抜けました」
頬を赤くしてそう答える静に、遥はワハハと声を上げて笑った。
「だいぶ酔うとんちゃう?帰り、送っていくけんね」
遥は火照った自分の顔に手を当てて、そんなに飲んだだろうかと小さく首を傾げた。